まちぶせ
妻とは高校時代に同じクラスになって、
恋をして、その後10年付き合って、結婚した。
高校時代、僕は応援団に、妻は新体操部に所属していた。
クラブハウスが20メートルくらい離れた隣同士にあったのだが、
新体操部の建物は鉄筋コンクリートなのに対し、
僕ら応援団はボロボロのプレハブ小屋であった。
ちょうど、キン肉マンに出てくる、「キン肉ハウス」のようであった。
部活から帰るとき、通学用の自転車が停めてある駐輪場に行くには、
必ず新体操部の部室の前を通らなくてはならなかった。
僕がまだ妻に片思いをしていた頃、
クラブ活動が終わって帰るとき、
時々、ちょうど新体操部の部室から出てきた妻と鉢合わせすることがあった。
妻が1人で出てきた時は、ちょっとあいさつをして、
二言三言、話をすることが出来たが、
途中まで一緒に帰る度胸と言うか、勇気はなかった。
妻が部室から他の部員たちと一緒に出てきた時は、
気づかない振りをして、そのまま通り過ぎた。
妻に話しかけることで、その言葉遣いや態度で、
僕が妻のことが好きであることを、
他の部員に、悟られるのが恥ずかしかったのだ。
恥ずかしかったが、何とか「鉢合わせ」したかった。
だから、部活が早めに終わっても、
新体操部から妻が出てきそうな時間帯まで部室の前で、
まちぶせしていた。
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その後、大変な努力をして、妻と付き合えることになった。
高校、大学、社会人と、膨大な時間を二人きりで過ごした。
もう、まちぶせをする必要はなくなった。
そして結婚して、「彼女」から「妻」となり、
子供が生まれて「母親」となった。
妻は子ども達と過ごす時間が圧倒的に多くなり、
僕と2人きりで過ごす時間は激減した。
そして僕は今、またあの頃のように、妻を「まちぶせ」している。
子ども達が寝かしつけた後、妻が2階の寝室から出てきて、
1階のリビングに下りてきそうな時間を見計らって、
僕も2階の仕事部屋からノートパソコンを持って1階に降りる。
1階のリビングで会える夜もあるし、会えない夜もある。
いつも子育てでクタクタになっている妻は、
そのまま子ども達と一緒に眠ってしまうことが多い。
「今夜は妻と会えるだろうか?」
と思いながら、今夜もそろそろ、1階に降りてみようかな、と考えている。






執筆者 西山仁胤 広島県在住 32歳、経営コンサルタント、ライター



